派遣先で雇用契約を作成する必要はない!作成が必要な書類4種類を説明

派遣労働者を受け入れる場合に気になるのが契約書です。派遣社員に対して結ぶ契約書のことを派遣雇用契約書と呼びますが、派遣先と派遣労働者のあいだで取り交わす必要はありません。その代わり派遣先企業は、派遣会社と4種類の書類をやり取りしなければならないのです。
本記事では、派遣先企業が派遣会社とやり取りする書類と提携の流れ、派遣社員を受け入れる際の注意点について解説します。
目次
- 基本契約書
- 個別契約書
- 抵触日の通知書
- 待遇等に関する情報提供の書類
- 派遣先は雇用契約書を発行しない?
- 派遣契約の書類は誰がつくる?
- 作成した書類に期限はある?
派遣は派遣先と労働者の雇用契約ではない
派遣労働者を受け入れる時に結ぶ契約書ですが、派遣先と労働者の間での雇用契約はありません。契約を結ぶのは人材派遣会社と労働者であり、この両者の間で取り交わされるのが派遣雇用契約書です。
また人材派遣会社は、賃金や契約期間、就業時間や派遣先となる事業所の場所などが記載された労働条件通知書によって労働者に契約内容を通知します。これは労働基準法にて通知が義務付けられている書類です。
また、労働条件通知書と似たものに就業条件明示書というものがあります。労働条件通知書は労働基準法、就業条件明示書は労働派遣法に基づいて作成する書類のため、それぞれ別々に書類を作成する必要がありますが、同じ項目が多いため「就業条件明示書兼労働条件通知書」として交付する人材派遣会社もあります。
派遣先企業が派遣会社とやりとりする書類
派遣先が派遣会社とやりとりする書類は以下の4つです。
- 基本契約書
- 個別契約書
- 抵触日の通知書
- 待遇等に関する情報提供の書類
それぞれどういった内容なのか、詳しく見てみましょう。
基本契約書
基本契約書の正式名称は、労働者派遣基本契約書といいます。派遣元と派遣先の間で取り交わす書面であり、継続的に派遣労働者を派遣することが定められています。作成は義務ではありませんが、トラブル回避のためのお守りとして作成することが多いようです。
記載項目の一例は以下の通りです。
- 目的
- 適用範囲
- 個別契約
- 派遣料金
- 派遣先責任者
- 派遣元責任者
- 指揮命令者
- 適正な就業条件の確保
- 適正な労働者の派遣義務
- 代替要員の確保
- 苦情処理
- 派遣労働者の個人情報の保護
- 企業秘密および個人情報の守秘義務
- 安全衛生など
- 福利厚生施設の利用
- 損害賠償
- 契約解除
- 派遣契約の中途解除
- 有効期間
- 解除制限
- 協議
- 管轄裁判所
個別契約書
労働者派遣個別契約書では、主に派遣社員の保護に関する規定が盛り込まれます。基本契約書とは異なり法律で作成が義務付けられており、派遣労働者を受け入れる場合は必ず作成しなければなりません。
記載する項目の一例は次の通りです。
- 業務内容
- 業務に伴う責任の程度
- 就業場所
- 組織単位
- 指揮命令者
- 派遣期間
- 就業日
- 就業時間
- 休憩時間
- 安全および衛生
- 派遣労働者からの苦情の処理
- 労働者派遣契約の解除にあたって発生する派遣労働者の雇用の安定を図るための措置
- 派遣元責任者
- 派遣先責任者
- 就業日外労働
- 時間外労働
- 派遣人員
- 派遣労働者の福祉の増進のための便宜の供与
- 派遣先が派遣労働者を雇用する場合の紛争防止措置
- 派遣労働者を無期雇用派遣労働者または60歳以上の者に限定するかどうか
- 労使協定方式の対象となる派遣労働者に限定するかどうか
- 紹介予定派遣に関する事項
書式は厚生労働省「労働者派遣(個別)契約書 記入例」にて公開されています。
抵触日の通知書
抵触日とは、労働者派遣法において定められた3年の年限を過ぎた翌日のことを指します。事業所単位と個人単位の2種類がありますが、どちらも3年の上限がついています。
この書類は派遣先から派遣元に対し、事業所単位の期間制限の抵触日を記載して提出しなければなりません。記載内容は以下の通りです。
- 派遣元企業の事業所名・代表者名
- 派遣先企業の所在地・事業所名・代表者名
- 派遣受入事業所の所在地・事業所名
- 派遣可能期間の抵触日
こちらの書式は厚生労働省「抵触日通知書例」で公開されているため、必ず提出するようにしてください。
待遇等に関する情報提供の書類
待遇面などに関する情報共有ができる書類も作成しなければなりません。義務ではありませんが、基本契約書や雇用契約書と同様、トラブルを回避する目的で作成されます。派遣労働者がどのような待遇で受け入れられているのかなどを明記しておくことで、トラブルを未然に回避できるでしょう。
派遣契約を締結する流れ
派遣契約を締結するまでの流れは「労働者派遣契約」によると以下の通りとなっています。
- 基本契約を締結する 派遣元と派遣先企業の間で、継続的に取引をするうえでの共通事項を締結する
- 事業所抵触日の通知 派遣先からの依頼を受けると同時に、派遣先から派遣元に対して事業所抵触日の通知を送る
- 個別契約の締結 派遣先と派遣元の間で、業務内容や派遣先、その他就労条件をすり合わせ合意を得られた時点で締結
ここまでの書類のやり取りをして、晴れて派遣労働者が派遣先に送られます。通知関係の書類に関しては記載事項が少ないものの、契約関係や就労条件の書類は記載事項が多いのが特徴です。全ての書類において言えることですが、抜けや漏れがないようしっかりと作り込みましょう。
ゼロから作るのは労力がかかるため、公開されているテンプレートを使用しながら必要事項を記入してもいいかもしれません。
派遣社員を受け入れる際の注意点
派遣社員を受け入れる際には、いくつかの注意点があります。厚生労働省が発行している「派遣社員を受け入れるときの主なポイント」では、以下の項目に注意するよう呼びかけられています。
- 事業所単位・個人単位の期間制限を守ること
- 就業前に派遣先が直接面接を行うことの禁止
- 適切な派遣契約の締結
- 離職後1年以内の労働者受け入れ禁止
- 派遣元によって社会保険に加入されているかの確認
- 派遣労働者からの苦情処理に関する処理体制の整備
- 派遣先責任者の選任
- 派遣先管理台帳の作成
- 労働者の募集情報の提供
- 派遣労働者と社員の待遇の均衡化
法的に守らなければならない内容から、派遣先企業に努力義務として求められる内容までさまざまです。これらの内容は派遣労働者を守るために必要なことであり、受け入れる前に構築しておく必要があるでしょう。
違反すると法的に罰せられる可能性もあるため、きちんと整備しておくことが重要です。
派遣契約の書類に関するよくある質問
派遣先は雇用契約書を発行しない?
雇用契約書は派遣元と派遣労働者の間で取り交わされているため、派遣先は雇用契約書を発行しません。その代わりに派遣元から労働条件通知書が派遣労働者に渡され、受領をもって派遣先との雇用契約締結となります。
派遣契約の書類は誰がつくる?
派遣契約の書類は派遣元が作成する「基本契約書」「個別契約書」の2種類と、派遣先が作成する「抵触日の通知書」とそれに付随する待遇などの情報を記した書類に分かれます。
作成した書類に期限はある?
法令上は、派遣契約に関する書類に保存期間はありません。ただし派遣労働者を管理するための派遣元管理台帳と呼ばれる書類に関しては3年間の保管が義務付けられているため、個別契約書などの関連書類においても同様に保管しておくことが望ましいです。/span>
まとめ
労働者派遣に関する契約書が非常に特殊で、慣れていなければ手続きが複雑で難解に感じてしまうでしょう。しかし、ひとつずつクリアすることで、大きなトラブルやミスに繋がるリスクは低くなります。法律で義務付けられているという理由もありますが、派遣労働者を守るためにもしっかりとした契約書を作成してください。