製造業の現状と課題|解決方法とデジタル化のメリットを紹介

製造業が抱える課題は多岐に渡るうえに複雑です。しかし、課題を放置していても事態は悪化の一途を辿るだけ。そのため、早急な対策による課題解決が求められます。今回は、製造業を取り巻く現状をはじめ、抱える課題、課題解決のための方法を紹介します。
目次
- 労働人口の減少による人手不足
- DXの著しい遅れによる損失
- 災害や感染症によるサプライチェーンの分断
- 後継者不足による技術継承の寸断
- DX化の推進
- 労働環境の改善・働き方改革の推進
- サプライチェーンの再構築
製造業を取り巻く現状
製造業を取り巻く現状として、「国際競争力の低下」と「新型コロナウイルスの流行による影響」の2つが大きなトピックとして挙げられます。
かつて物づくり大国として知られた日本ですが、バブル崩壊により欧米流合理主義経営を導入。中長期的な人材育成・利益追求を続けていたところを、短期的に利益を追う経営にガラッと方向転換しました。その一方、欧米では合理主義をベースに日本流の品質管理や経営手法を取り入れたことで進化を遂げています。結果として日本は国際競争力を落とすことになったのです。
また、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大による影響で、一時的に工場はストップ。経済が止まったこともあり、企業活動がままならない状況に陥りました。現在においても半導体をはじめ、多くの資材を輸入に頼っていたため、回復の見通しが立たない状態です。
日本の製造業が抱える課題
現状を踏まえたうえで、日本の製造業が抱える課題には次のようなものがあります。
- 労働人口の減少による人手不足
- DXの著しい遅れによる損失
- 災害や感染症によるサプライチェーンの分断
- 後継者不足による技術継承の寸断
労働人口の減少による人手不足
引用元:総務省「令和4年版 情報通信白書|生産年齢人口の減少」
日本の出生数は第二次ベビーブームを迎えた1973年の209万人から右肩下がりに減少。2019年には半数以下の87万人にまで出生数は激減しています。この結果、少子高齢化が進み、生産年齢人口(15~65歳)も減少の一途を辿っています。
総務省の「令和4年版 情報通信白書|生産年齢人口の減少」によると、生産年齢人口は1995年をピークに減少に転じています。1995年には8,716万人いた生産年齢人口も2020年には7,509万人に減少。25年の間に1,200万人も減っていることになります。この傾向は今後、さらに加速。30年後の2050年には5,275万人になり、30年間で約2,200万人も減少すると推計されており、さらなる人手不足に見舞われる見通しです。
DXの著しい遅れによる損失
総務省の「令和3年版 情報通信白書|我が国におけるデジタル化の取組状況」によると、24業種中8番目にDXが遅れています。製造業の約77%はDXを「実施していない」と回答。このうち、57.2%においては「今後も予定なし」と回答しており、今後もDXの遅れが心配されています。
政府が国を挙げてDXを推進しているのには、2025年の崖問題があるからです。2025年の崖とは、「DXの遅れにより2025年から最大で毎年12兆円の経済損失が出るおそれ」がある問題を言います。当然ですがDXの遅れが深刻化している製造業も例外ではありません。このまま2025年に突入してしまうと、業界全体で大きな損失が出ることになります。
災害や感染症によるサプライチェーンの分断
現在のサプライチェーン(原材料調達から販売までの一連の流れ)は、災害や感染症により容易に分断されます。サプライチェーンが分断されてしまうと製造業では企業活動がストップ。経済に大きな影響を与えることになります。今後は予測不能な事態に備えてサプライチェーン全体の可視化を行い、残されたリソースで企業活動を続けるための準備を進めることが求められます。
後継者不足による技術継承の寸断
少子高齢化による労働人口の減少により、技術を継承する人手が不足しています。これにより過去積み上げられてきた高い技術力の淘汰が始まっており、技術力の低下による生産性の低下や新規開発の難航といったさまざまな問題が懸念されています。
人手不足は一朝一夕でどうにかなる問題ではありませんが、DXにより作業効率を高めること、ベテランの技術力を言語化し、全社的に共有を図ることで、多少は継承者不足を補えるでしょう。
製造業が抱える課題の解決策
製造業が抱える課題を解決するには、次の対策を実施していく必要があります。
- DXの推進
- 労働環境の改善・働き方改革の推進
- サプライチェーンの再構築
DX化の推進
人手不足・継承者不足を解決するためには、キャパオーバーとなっている従業員のリソースを空けることから始めなければいけません。そのためにはDXによる業務効率化、生産性の向上が不可欠です。DXにより、インコア業務の自動化ができれば従業員がコア業務に集中可能。これにより人手不足は解消できます。
また、ベテランの思考プロセスやノウハウをデータ化してAIに継承させれば、誰でもベテランの技を再現できるようになります。さらに多言語化を図れば、特定技能外国人や海外拠点にいる現地の従業員にも技術の継承が可能。スムーズな人材育成が実現できます。
労働環境の改善・働き方改革の推進
どの業界でも人手不足が深刻化しているなかで、特に製造業は「きつい」「汚い」「危険」という労働環境の悪いイメージから人手が不足している状況です。そのため、早急に労働環境の改善を図る必要があります。
具体的には次のような対策による働き方改革の推進です。
- 短時間労働を導入する
- 残業の削減
- 深夜労働の削減
- 職務内容に対して適正な給与かどうかの見直し
つまり、ワークライフバランスを取りやすくするということです。加えて、能力値を正しく評価し、相応の給与を支払うことで従業員のモチベーションをアップ。3Kのイメージから脱却することで応募者が増え、適正な給与により離職率の低下が見込めます。
サプライチェーンの再構築
過去にも災害によるサプライチェーンの分断は問題視されてきていましたが、新型コロナウイルスの感染拡大によりその重要性がさらに注目を浴びることとなりました。災害はもちろん、今後も未知のウイルス拡大といった予測不能な事態に陥る可能性はゼロではないため、既存のサプライチェーンを見直す必要性に迫られています。
サプライチェーンの見直しを行い、現状の問題点を洗い出すことで、予測不能な事態にも対応できる柔軟で強靱なサプライチェンーンの再構築が可能になります。
製造業がDXを行うべき理由
製造業が抱える課題を解決するに当たって最も重要なのがDXです。その理由は次のとおりです。
- 生産性・労働力の向上
- コスト削減
- 新たな価値創出
ICTやAI、IoTツールを活用することで、業務の効率化・自動化が図れれば今よりも生産性が上がるのは自明の理。人手不足の解消はもちろん、従業員がコア業務に集中できる環境を整えることで、労働力の向上にも繋がります。また、データに基づき生産管理を行えば、各所の無駄を省けるためコスト削減も可能。DXによりリソース、財源に余裕ができれば、新商品開発に乗り出し、売上アップを狙うこともできるでしょう。
DXによる製造業の課題改善事例
とある製造会社では、事業規模が小さいながらも受注生産や見込み生産など、さまざまな生産形態が混在しており業務プロセスが複雑化していたことに気づきました 。そこで業務の整流化を図るために業務プロセス分析ツールを導入。自社に最適なプロセス整理を行い、業務を可視化しました。
さらに業務プロセスの最適化を図るため、小規模システムツールを自社開発して業務改善を行ったところ、人力でデータを転記するなどの業務の無駄削減に成功。既存事業の位置づけ変更や、未着手ビジネスを始動できたそうです。
まとめ
製造業が抱える課題は根が深く簡単に解決できるものではありません。特にDXは企業風土から根こそぎ変革を起こす手段なので、従業員からの反発やレガシーシステムのブラックボックス化など、取り組むにはさまざまな壁を乗り越える必要があります。しかし、ただ傍観していても激動の時代を生き抜いていくことはできません。2025年に言われる損失を最小減に抑えるためにも、今からDXへの取組を強化していきましょう。